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会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

第1回:会計基準における主な論点

2010.07.22
(2013.11.21 更新)
新日本有限責任監査法人 公認会計士 江村羊奈子
公認会計士 井澤依子

1.はじめに

日本の会計基準では、従来、財務諸表の遡及処理は行われていませんでしたが、IFRSとの長期コンバージェンス項目として検討が重ねられ、平成21年12月4日に「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号、以下、過年度遡及会計基準)と同適用指針(企業会計基準適用指針第24号、以下、適用指針)が公表されました。 この結果、平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後、会計方針や表示方法の変更、過去の誤謬の訂正があった場合には、あたかも新たな会計方針や表示方法等を過去の財務諸表にさかのぼって適用していたかのように会計処理又は表示の変更等を行うこととなりました。

本稿では、過年度遡及会計基準の概要と、適用に当たっての実務上の留意点を説明します。なお、文中の意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添えます。

2.会計基準における主な論点

  • 会計方針の変更と表示方法の変更については、原則として遡及処理します。⇒【3(2)、4、5】
  • 過去の誤謬の訂正についても、会計基準上は原則として遡及処理することとされていますが、金融商品取引法上は訂正報告書の制度が存在するため、遡及処理に係る規定は通常は適用されないと考えられます。⇒【3(2)、7】
  • 会計上の見積りの変更(例えば有形固定資産の耐用年数の変更など)は遡及処理せず、その影響は将来に向けて認識します。⇒【3(2)、6(1)】
  • 減価償却方法の変更については、会計上の見積りの変更と同様に、遡及修正は行いません。⇒【6(3)】
  • 臨時償却が廃止されました。⇒【6(4)】
  • 金融商品取引法上、比較情報という概念が導入され、当期の財務諸表の一部を構成する比較情報として対応する前期の財務情報が含められます。⇒【3(3)(4)】
  • すでに公表されているものの、まだ適用されていない新しい会計基準等がある場合、「未適用の会計基準等に関する注記」が求められます。⇒【4(4)】
  • 個別財務諸表における適用については、特段の取扱いは設けず、連結財務諸表と同様の取扱いとなりますが、注記については一部簡略化が図られています。⇒【8(1)】

3.会計上の変更及び過去の誤謬の訂正の会計処理

(1) 会計方針の定義

日本では従来、会計方針の定義に、会計処理の原則及び手続きと表示方法が含まれるものとされていました。しかし、国際的な会計基準では、会計方針と表示方法とが切り離されて定義されています。国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、会計上の取扱いが異なるものは別々に定義することが適当であると考えられることから、過年度遡及会計基準では、会計方針と表示方法とを別々に定義した上で、それぞれについての取扱いを定めることとされました(過年度遡及会計基準37)。

会計方針の定義

(2) 新基準適用後の原則的な取扱い

会計上の変更及び過去の誤謬の訂正は、原則として以下のとおりに取り扱われることとなっています。会計上の見積りの変更については、従来の取扱いと同様に遡及処理しないものとされましたが、その他については、遡及処理することとされています。遡及処理については、国際的な会計基準を参考に、それぞれの変更項目により、「遡及適用」「財務諸表の組替え」「修正再表示」に分けて定義されています(過年度遡及会計基準4)。

  従来の取扱い 新基準適用後の
原則的な取扱い
会計上の変更 会計方針の変更 変更の影響を当期または当期以降の財務諸表に反映 遡及処理する
(遡及適用)
表示方法の変更 当期の財務諸表から変更 遡及処理する
(財務諸表の組替え)
会計上の見積りの変更 変更の影響を当期または当期以降の財務諸表に反映 従来の取扱いと同様に、
遡及処理しない
過去の誤謬の訂正 前期損益修正として処理 遡及処理する
(修正再表示)

(3)比較情報制度の導入

過年度遡及会計基準を踏まえ、金融商品取引法上、比較情報制度が導入されました。比較情報とは、当事業年度(当連結会計年度)に係る(連結)財務諸表((連結)附属明細表を除く)に記載された事項に対応する前事業年度(前連結会計年度)に係る事項をいいます(財規6条、連結財規8条の3)。

従来は、当期の有価証券報告書には、前期の有価証券報告書に載っていた前期の財務諸表がそのまま記載され、前期の監査報告書のコピーが添付されていました。比較情報制度導入後は、当期の財務諸表の一部を構成する比較情報として、対応する前期の財務情報が含められることとなり、比較情報を含めた当期の財務諸表に対するものとして監査報告書が発行されます。

比較情報

(4)比較情報の開示

①定性的情報の取扱い
比較情報の開示について、財務諸表等規則ガイドライン6では、以下のように定められています(連結財務諸表は、連結財務諸表規則ガイドライン8の3)。

定量的情報 当事業年度に係る財務諸表において記載されたすべての数値について、原則として、対応する前事業年度に係る数値を含めなければならない。
定性的情報 当事業年度に係る財務諸表の理解に資すると認められる場合には、前事業年度に係る定性的な情報を含めなければならない。

このことから、定性的情報については、当期の(連結)財務諸表の理解に資すると認められるか否か、慎重に判断して、開示の要否を決定する必要があると考えます。 例えば「重要な会計方針」(財規8条の2参照)の開示に際しては、前事業年度と当事業年度の2期間について開示する必要はなく、当事業年度の開示のみで足りると考えられます(日本公認会計士協会「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(以下、研究報告)Ⅱ1.)。

また、前期末における重要な後発事象(開示後発事象)であり、当期の財務諸表に反映されている事象については、当期の財務諸表において比較情報として開示する意義が乏しいことから、基本的には当該後発事象の開示は不要であると考えられます。一方、係争事件の経過のように、さまざまな経緯を経るものについては、一度後発事象として開示された事象であっても、すでに開示された事項を更改・補正したり、もしくはその経緯そのものを適切な注記の箇所において開示したりすることが有用であることも考えられます(研究報告Ⅱ10.)。

②連結財務諸表への移行等に伴う取扱い
前期まで個別財務諸表のみを開示していた会社が、株式取得で連結子会社ができたことにより、初めて連結財務諸表を作成する場合には、当年度の連結財務諸表に対応する比較情報は存在しないことから、開示は不要とされています(研究報告Ⅱ2.)。 また、従来連結の範囲に含めていなかった子会社について、重要性が高まったことから連結子会社として取り扱う場合、連結範囲の変更は会計方針の変更に該当しないことから、比較情報である前期の連結財務諸表は修正されません(研究報告Ⅱ4.)。 なお、連結子会社の事業年度等に関する事項の変更や、親会社及び子会社の決算日の変更についても、会計方針の変更に該当しないため、遡及適用の対象にはなりません(研究報告Ⅱ5.)。

会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

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