業種別会計
不動産業

第4回:保有目的の変更・不動産の時価

2016.12.19
新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 阿部徳仁/大場健司/村上和典

1.不動産の保有目的の変更

(1) 保有目的の変更

不動産業においては、不動産取得時の会社の意思である、不動産の保有(取得)目的により、不動産の財務諸表の表示科目が異なることになります。不動産を販売目的で購入した場合には流動資産の棚卸資産として計上し、不動産を賃貸目的で購入した場合には固定資産として計上されることになります。

また、不動産業においては、経済的合理性から不動産の保有目的を変更する場合があります。例えば、販売用として物件を取得したものの、賃料を得る収益物件とした方が安定収入を見込めるため、販売用不動産を賃貸用不動産に転用することや、賃貸目的で取得した物件について、経営環境の変化や、会社の戦略の転換により、賃貸を継続するより売却してしまった方が有利と考え、販売用不動産に振り替えるといったことが考えられます。

しかし、保有目的により会計処理が異なるため(1(3)表【振替に係る会計処理のまとめ】参照)、会計処理を恣意的に操作することがないように、保有目的の変更については慎重な対応が必要になります。

保有目的の変更に際しては、「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い(監査・保障実務委員会報告69号)」に沿って保有目的の変更の合理性を検討する必要があります。すなわち、変更時点において取締役会等によって承認された具体的かつ確実な事業計画が存在していることや、その変更理由に経済的合理性があることを確認する必要があります。

【不動産の保有目的の変更に係る検討の視点】
不動産の保有目的の変更に係る検討の視点

(2) 保有目的変更時の会計処理

(棚卸資産から固定資産へ)

販売目的で保有していた不動産を、賃貸事業目的あるいは自社使用の不動産とする場合には「棚卸資産の評価に関する会計基準」を適用し、当該不動産の簿価切下げ後の帳簿価額を有形固定資産または投資不動産に振り替えることになります。また、販売用不動産が土地と建物を一括で表示されている場合には、土地と建物に簿価を按分して、固定資産に振り替えることが必要です。

(固定資産から棚卸資産へ)

賃貸事業目的あるいは自社使用のために保有している不動産を、販売目的による保有に変更する場合には、保有目的の変更自体が当該固定資産の減損の兆候に該当する可能性があるため、「固定資産の減損に係る会計基準」に従い、減損の認識および測定の判定をした後の帳簿価額により固定資産から販売用不動産に振り替えることになります。

(開示)

販売用不動産等および固定資産の保有目的の変更が、会社の財務諸表に重要な影響を与える場合には、追加情報として、その旨および、その金額を貸借対照表に注記することが必要となります。

(3) 固定資産から振り替えた棚卸資産を販売した場合の収益の計上区分

固定資産である不動産を棚卸資産に振り替えた場合、販売するために保有目的の変更をするわけですが、固定資産からの振り替え後すぐに棚卸資産である不動産を売却した場合、その売却金額を営業収益としてよいかという論点があります。

例えば、既存の棚卸資産としての販売用不動産の販売だけでは営業利益目標に届かないので、含み益のある固定資産として保有しているオフィスビルを期末日近くにおいて販売目的(棚卸資産)に振り替えて当期中に売却すると、そのまま固定資産として売却していれば特別利益として計上されていた金額が、営業収益や営業利益として計上されてしまうことになります。

このように保有目的の違いにより段階利益に影響を与えるため、直近の貸借対照表で振り替えたことが認識できることを営業収益計上の条件とする(変更期内での売却は営業収益としない)など、恣意的な振り替え・売却がなされないように慎重な対応が必要です。また、保有目的の変更の合理性について、単に売却の見込みがあるという理由だけでは足りず、具体的な売却計画の存在、売却する理由の合理性、売却計画の実現可能性などを総合的に判断することが必要となります。

【振替に係る会計処理のまとめ】

  振替時の適用基準 振替時の費用処理 振替後の売却処理
棚卸資産から固定資産 (収益性の低下を反映)
棚卸資産の評価に関する会計基準
収益性の低下があれば、売上原価として費用処理 簿価と売却価額の差額は固定資産売却損益
固定資産から棚卸資産 (減損の判定)
固定資産の減損会計に係る基準
減損認識するものがあれば、減損損失として費用処理 売却価額は営業収益、売却簿価は営業原価

2.販売目的で保有する不動産の賃貸収入と賃貸原価(減価償却等)

保有目的の変更ではありませんが、販売目的で保有する不動産を賃貸することが考えられます。例えば、稼働中でテナントが入っている賃貸オフィスビルを転売目的で取得するようなケースがあります。このように販売用不動産を一時的に賃貸する場合には、賃貸により発生する収益の計上区分と、当該物件に関する減価償却の要否が問題となります。

収益の計上区分については、自社の主たる事業目的に従って、営業収益もしくは営業外収益に計上することが考えられます。例えば、不動産販売業のみを事業目的としている企業であれば、本来の事業目的による収益ではないと考えられるため、営業外収益とすることが考えられます。しかし、不動産業においては、一般的に販売業や賃貸業を含めて事業目的としている場合が多いと考えられ、営業収益として計上する場合が多いと考えられます。

一方、減価償却については、当該不動産が棚卸資産であることから減価償却の必要性はないとの考え方もありますが、以下の理由などから原則として減価償却を行うべきと考えられます。

  • 棚卸資産であっても固定資産であっても、不動産が時の経過により減価するという実態に違いがないこと
  • 費用収益対応の原則を考慮し、賃貸収益に対応する賃貸原価を、減価償却を適用することにより計上できること

ただし、賃貸期間が短期的なものにすぎず、また減価償却金額に重要性が乏しい場合などには、減価償却を適用しないことも容認されると考えられます。

また、減価償却費の計上区分は、賃貸収益の計上区分に合わせて営業原価または営業外費用として計上することになると考えられます。