業種別会計
証券業

第6回:自己売買(ディーリング)業務について

2011.04.15
新日本有限責任監査法人
証券業研究会 木村嘉浩/本間正彦

6. 自己売買(ディーリング)業務について

ここでは、前述の自己売買(ディーリング)業務における取引の流れ、内部統制の特徴および会計処理について説明します。

(1)取引の発生から財務報告までの流れ

自己売買業務は委託売買業務と同様、有価証券関連業の主要業務と位置付けられ、その処理については多くがシステム化されている点が特徴です。また、時価評価を行う際に判断や見積りが介入することもあるため、そのリスク量や評価額の算定等に関しては独立した専門部署(ミドル部署等)による検証が行われるなど、内部統制が強化されている点も大きな特徴と考えられます。また、複雑なデリバティブ取引等が行われる場合には、商品性の検証に関する統制や時価評価の際のより高度な判断や見積りが必要になると考えられます。

自己売買取引の発生から財務報告までの流れの例を単純化して表すと以下のようになります。なお、証券会社は取引所を介して取引(取引所取引)をする場合もあれば、顧客と直接取引(相対取引)をする場合もありますが、ここでは相対取引を前提とします。

自己売買取引の流れの例

自己売買取引の流れの例

自己売買取引については、例えば以下のような財務報告に係るリスクと統制活動が考えられます。

自己売買取引における財務報告に係るリスクと統制活動の例
プロセス 財務報告に係るリスクの例 統制活動の例
口座開設 誤登録、架空登録など
  • 口座開設時の確認手続
  • 口座開設時の登録原票の承認手続
  • 口座開設処理実行の役席承認入力、など
約定 誤入力、入力漏れ、二重/架空入力など
  • 契約書等と約定システム入力内容の照合
  • 取引先等との約定内容照合
  • トレーダーの日々の取引/損益状況報告、など
決済 誤計算、誤記帳、記帳漏れ、二重/架空記帳など
  • 約定システムと決済システム間の自動転送
  • 取引先等との決済内容照合、など
会計計上 誤記帳、記帳漏れ、二重/架空記帳など
  • 約定システムからの自動転送・自動記帳
  • ミドル部署等による検証、など
評価 誤計算、誤記帳、記帳漏れ、二重/架空記帳など
  • システムによる自動計算
  • 評価結果の会計システムへの自動転送
  • ミドル部署等による検証、など

(2)トレーディング商品/損益の会計処理

トレーディング損益について、「統一経理基準」では以下のように具体的な取扱いが定められています。なお、トレーディング商品から生じる損益であっても、受取配当金、受取債券利子あるいは収益分配金等は、トレーディング損益ではなく「金融収益」として会計処理されます。

(一部抜粋)
有価証券等に係る実現損益およびデリバティブ取引等に係る決済損益については、当該売買等約定日(国内における営業時間終了時以降に約定したものは、当該売買の受注日の翌営業日)。ただし、引受契約に基づく有価証券等については、他の有価証券等とは区分して、条件決定日に計上する。有価証券等(およびデリバティブ取引等)については、原則として毎月末および期末に洗替えの方法により評価替え(およびみなし決済損益の算定)を行い、このとき発生した評価損益(およびみなし決済損益)を計上すること。

<商品有価証券等の会計処理>

トレーディング商品については、基本的には金融商品会計基準における売買目的有価証券やデリバティブ取引と同様に処理されますが、証券会社においては、商品有価証券については必ず約定日基準で認識すること、売買約定時の相手勘定は「約定見返勘定」という固有の勘定科目を使用することが特徴的といえます。

「約定見返勘定」は、買い約定時には未払金、売り約定時には未収入金に相当しますが、借方の金額と貸方の金額を相殺して計上することができます。

買い約定成立日
(借)商品有価証券等[資産]××(貸)約定見返勘定[負債]××

買付代金の受渡日
(借)約定見返勘定[負債]××(貸)現金預金××

また、証券会社は、自己が買い付ける以外にも、さまざまな方法で有価証券を調達することができます(詳細は次項で説明します)が、利益獲得やヘッジ目的のために、そのように調達した有価証券等を売却すること、あるいはそもそも保有していない有価証券等を売却約定すること(空売り)もあります。このように生じた貸方残高をショート・ポジションといい、以下のような仕訳となります。

売り約定成立日
(借)約定見返勘定[資産]××(貸)商品有価証券等[負債]××

原則として、銘柄毎に貸方残高となった「商品有価証券等」を、負債の部に計上しますが、継続適用を条件に両建て処理することもできます。

(3)有価証券等貸借取引

証券会社は、ショート・ポジションの解消や、顧客からの有価証券等需要に応じるために、さまざまな方法で有価証券等を調達し、また、貸し出しています。その方法には、現金担保付債券貸借取引(レポ取引)、売戻・買戻条件付債券等売買取引(現先取引)あるいは貸株取引等があります。規模等にもよりますが、これらの取引残高の証券会社における資産および負債総額に占める割合は高く、重要な位置を占めています。

なお、ここで会計処理の対象となっているのはあくまで現金の授受であり、貸借の対象となった有価証券については会計処理を要しません。

<レポ・現先取引の会計処理>

有価証券等を調達する場合は、以下のように会計処理されます。なお、レポ取引においては、有価証券を受け取り、その代わりに担保金を差し入れたことになるので、品借料を支払い、担保金に対する金利を受け取ります。

約定日
仕訳なし

スタート取引受渡日
レポ:
(借)借入有価証券担保金××(貸)現金預金××
現先:
(借)現先取引貸付金××(貸)現金預金××

エンド取引受渡日
レポ:
(借)現金預金××(貸)借入有価証券担保金××
(借)有価証券貸借取引費用
(品借料)※
××(貸)現金預金××
(借)現金預金××(貸)有価証券貸借取引収益
(受取利息)※
××
現先:
(借)現金預金××(貸)現先取引貸付金××
  (貸)現先取引収益※××

※毎月末および期末には、期間収益・期間費用を算出し未収収益または未払費用として計上されます。

(週刊 経営財務 平成22年11月1日 No.2989 掲載)

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