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太田達也の視点

会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権の監査役(会)への移行
~その留意点と検討課題~

2015.04.01
公認会計士 太田 達也

会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権の移行

平成26年6月27日付公布の改正会社法では、監査役設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役(監査役会設置会社の場合は、監査役会)が決定するものとされました(会社法344条1項、3項)。
改正前は、取締役会が、会計監査人の選任・解任等に関する議案の内容を決定するとされていました。会計監査人の選解任等に関する議案の内容を、監査を受ける取締役会が決定できたため、会計監査人が取締役から有形無形の影響を受け、経営陣の意向を慮った監査を行う恐れがあるという指摘がみられました。改正後は、取締役の会計監査人に対する影響力を排除し、会計監査人の独立性を確保するために、会計監査人の選任・解任等に関する議案の内容の決定権を監査される側の取締役会ではなく、監査する側の監査役(または監査役会)に付与するものとされました。

監査役(会)としての対応

監査役(会)が会計監査人を再任するかどうかの判断においては、会計監査人の能力、組織および体制(審査の体制を含む)、監査の遂行状況およびその品質管理、独立性等を総合的に勘案して判断することになると考えられます。監査役(会)としては、その判断を行ううえでの何らかの基準を策定したうえで、その判断の過程を残しておくことが考えられます。
また、従来、その事業年度の末日において公開会社であるときは「会計監査人の解任または不再任の決定の方針」が事業報告の記載事項とされていますが(会社法施行規則126条4号)、議案の内容の決定権を有することになる監査役(会)が「会計監査人の解任または不再任の決定の方針」を定めることが考えられます。その場合に、事業報告の記載内容の見直しの要否も検討事項となると思われます。
さらに、東京証券取引所の公表している「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」において、監査役会は会計監査人を評価する基準を策定し、独立性と専門性を有しているかどうかを確認することとされています。この取扱いも考慮しておく必要があると考えられます。

経過措置の内容と解釈

本改正については経過措置が設けられています。すなわち、改正会社法の施行日(平成27年5月1日)前に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集手続が開始された場合には、なお従前の例によるとされています(改正法附則15条)。従前の例とは、取締役会が再任か不再任かを決定し、監査役会はそれについて同意するという従来の手続です。一方、会社法の施行日以後に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集手続が開始されている場合は、改正法が適用され、監査役会が議案の内容を決定することになります。
招集手続の開始の日とは、定時株主総会の招集に関する取締役会の決議の日を指します。この点について、法務省民事局参事官室によれば、株主総会の日時および場所だけでなく、会計監査人の選解任等に関する議案の内容をも決定していないと、招集手続の開始とはいえないということです※1。すなわち、「株主総会の招集手続が開始された場合」とは、会社法298条に規定する「株主総会の招集の決定」における株主総会の目的事項等まで決定した場合を指すことと考えられるとされています。日時および場所のみを決議すれば招集手続の開始があったと解する会社法制定のときの解釈とは異なっている 点に留意が必要です。

定時株主総会までのスケジュール

改正会社法の施行日(平成27年5月1日)前に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集手続が開始されている場合は、なお従前の例によるため、それに該当する企業の場合は慌てる必要はないと思われます。
一方、施行日以後に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集手続が開始されている場合は、監査役(会)が会計監査人の再任・不再任の判断をすることになります。3月決算会社の場合、5月に定時株主総会の招集に関する取締役会の決議をするケースが多く、その場合は改正法が適用されます。
監査役会は、一定の判断基準(再任に係る判断基準だけでなく、不再任の決定の方針も含む)を策定したうえで、担当監査役が調査したうえで、施行日以後の監査役会において再任を決議し、決算取締役会までに執行側に対する通知を行うというスケジュールが考えられます。改正法適用が予定されているのであれば、判断基準の策定や担当監査役による調査を前もって準備しておくことも考えられます。スケジュールの事前の検討が必要不可欠かと思われます。


  1. ※1法務省民事局によれば、パブリックコメントの「第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方」の「2 会社法施行規則関係」(7)⑯の考え方と同様に解するとのことです。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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