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太田達也の視点

親会社から100%子会社に対する無対価分割に係る会計と税務

2015.06.01
公認会計士 太田 達也

本コラムでは、2013年8月に「100%子会社間の無対価分割に係る会計と税務」を取り上げました。今回は、「親会社から100%子会社に対する無対価分割に係る会計と税務」を解説します。

100%子会社に対する無対価分割の会計処理

分割法人及び分割承継法人のそれぞれの会計処理は、次のとおりです。

1. 分割法人の会計処理

共通支配下の取引ですので、移転した事業の簿価純資産額について株主資本を変動させます。変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額とします(企業結合・事業分離等適用指針203-2項、233項、446項)。

図1
(注)資本金、準備金または剰余金のいずれを変動させるかを取締役会等の会社の意思決定機関で定めます。

会計上、無対価分割の場合は、親会社から100%子会社への分割であっても、分割型分割として処理する点に留意が必要です。すなわち、通常の分社型分割の場合は、対価として分割承継法人株式を受け入れますが、無対価であるときは受け入れる分割承継法人株式がありません。上記の仕訳のように、純資産の減少を認識することになります。

2. 分割承継法人の会計処理

分割承継法人は、分割法人における分割直前の帳簿価額により諸資産及び諸負債を引き継ぐとともに、分割法人で変動させた株主資本の額を引き継ぐ処理をします(企業結合・事業分離等適用指針203-2項、234項)。
原則として、分割法人で変動させた資本金及び資本準備金は、その他資本剰余金として引き継ぎ、分割法人で変動させた利益準備金は、その他利益剰余金として引き継ぎます(企業結合・事業分離等適用指針437-3項)。
このように資本金及び準備金として引き継がず、剰余金として引き継ぐのは、無対価であって、分割承継法人は新株を発行していないためです。

図2
(注)その他資本剰余金及びその他利益剰余金を変動させます(資本金及び準備金は引き継ぎません)。

100%子会社に対する無対価分割の税務上の適格判定

税務上、無対価分割で、かつ、その分割の直前において分割法人が分割承継法人の株式を保有している場合(分割承継法人が分割法人の発行済株式等の全部を保有している場合を除く)の分割は、分社型分割であると規定されています(法法2条第12号の10ロ)。
無対価分割については、次の場合に適格要件を満たすことが明確化されています(法令4条の3第6項2号)。
この場合、分割後において、完全支配関係の継続が見込まれていることも、適格分割に該当するために必要です。

(1)分割型分割の場合
  1. 100%子会社から直接の100%親会社に対する分割
  2. 同一の者が株式を100%直接に所有している兄弟会社間の分割
  3. 分割承継法人及びその直接の100%親会社が分割法人の株式の100%を保有している場合の分割
(2)分社型分割の場合 親会社から直接の100%子会社に対する分割

100%子会社に対する無対価分割の税務処理

無対価であっても、対価の交付を省略したにすぎないと考えるため、対価を交付した場合の税務処理と原則として同様です。
親会社から100%子会社に対する分割を無対価で行った場合、分割後において、親会社と子会社の完全支配関係の継続が見込まれるときは、適格分社型分割になると考えられます。

1. 分割法人の税務処理

適格分社型分割に該当する場合は、無対価であっても、分割法人は移転する事業に係る簿価純資産額により分割承継法人株式を受け入れる処理をします(法令119条の3第13項)。

図3

なお、債務超過の事業を移転する場合、受け入れる分割承継法人株式は、下記のようにマイナスで受入処理します。

図4

この取扱いは、すでに説明した会計処理と異なるので、後で説明するように、申告調整で対応することになります。

2. 分割承継法人の税務処理

分割承継法人は、受け入れる事業に係る簿価純資産額と同額の資本金等の額の加算(受入事業が債務超過である場合は減算)処理を行います。

図5

会計と税務の調整

すでに説明したように、会計上は分割型分割として処理し分割承継法人株式の受け入れを認識しないのに対して、税務上は分割承継法人株式の受入処理をします。この点は、法人税申告書別表5(1)で受入処理をすることになります。
以下、会計上はその他資本剰余金100を減少する処理をしたものとし、税務上は分割承継法人株式の受け入れ100を認識する処理であった場合の分割法人における調整例です。なお、分割承継法人株式をS社株式とします。

別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書

Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在利
益積立金額
当期の増減 差引翌期首現在
利益積立金額
①-②+③
利益準備金        
    積立金        
         
S社株式     100 100
資本金等の額     △100 △100
(注)税務上、利益積立金額と資本金等の額との間の振替調整(プラスマイナス100)を入れることにより、利益積立金額に変動が生じないことが表されます。
Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書
区分 期首現在資
本金等の額
当期の増減 差引翌期首現在
資本金等の額
資本金または出資金 XXX     XXX
資本準備金        
その他資本剰余金 XXX 100   XXX
利益積立金額     100  
(注)利益積立金額との間で振替調整(プラスマイナス100)が入ることによって、資本金等の額にも変動が生じないことが表されます。

税務上は、分割法人において純資産の変動は認識しないため、利益積立金額にも資本金等の額にも変動が生じません。利益積立金額と資本金等の額との間の振替調整によって、その点が正しく表されます。

無対価分割後に子会社株式の売却が予定されている場合等の会計上の取扱い

無対価分割後に子会社株式の売却が予定されている場合や、子会社株式の減損処理の回避が意図されている場合などのケースで、先の会計処理をそのまま適用すると、無対価分割をした場合としなかった場合でその後の損益への影響額が異なる結果をもたらすことになります。このようなケースにおいては、全体としての取引実態を踏まえた会計処理を行うことが必要であると考えられ、移転した株主資本相当額について、100%子会社株式の帳簿価額を増加する処理が経済実態を反映することになると考えられます。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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