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太田達也の視点

特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)を交付した場合の会計処理と税務

2016.07.01
公認会計士 太田 達也

特定譲渡制限付株式制度とは

平成28年度税制改正により、法人税法上、損金算入の対象となる事前確定届出給与の範囲に、一定の要件を満たす譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)が含まれることになりました。これは、会社が役員に対して報酬債権を付与し、役員から報酬債権の現物出資を受けるのと引き換えにその役員に対して一定期間の譲渡制限が付された株式(特定譲渡制限付株式といいます)を交付します。一定期間の譲渡制限が付されることにより、業績向上のインセンティブ効果、株主目線の経営を促すことが期待されます。本年6月の定時株主総会で、さっそくこの制度の導入を決議した会社が出てきました。

また、平成28年度税制改正では、法人税法上、損金算入の対象となる利益連動給与の算定基礎となる指標として、営業利益や経常利益等に加えて、ROEやROA等の利益関連指標も含まれることが明確化される改正も行われており、今後役員報酬制度の制度設計のバリエーションが増えることになりました。

特定譲渡制限付株式を交付した場合の会計処理

経済産業省が公表した「攻めの経営を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆるリストリクテッド・ストック)の導入等の手引~」には、特定譲渡制限付株式を交付した場合の会計処理が示されています。

特定譲渡制限付株式を交付後は、現物出資された報酬債権相当額のうち、役員が提供する役務として当期に発生したと認められる額を、対象勤務期間(譲渡制限期間)を基礎とする方法等の合理的な方法で算定し、費用計上します。

設例

<前提条件>

  • 役員から報酬債権3,000百万円の現物出資を受け、特定譲渡制限付株式300株を発行する。
  • 株式付与から譲渡制限解除までの期間は3年間とし、役務提供(3年目)に譲渡制限が解除される。
  • 譲渡制限解除の条件は、譲渡制限期間中、勤務を継続することである。
  • <会計処理>

    時系列 会計処理例
    報酬債権付与および株式発行時 前払費用等 3,000 / 資本金等 3,000
    役務提供(1年目) 株式報酬費用 1,000 / 前払費用等 1,000
    役務提供(2年目) 株式報酬費用 1,000 / 前払費用等 1,000
    役務提供(3年目) 株式報酬費用 1,000 / 前払費用等 1,000

税務上の取扱いおよび申告調整

税務上の損金算入要件を満たす事前確定届出給与に該当する場合は、役務提供に係る費用額は、譲渡制限解除日(権利確定日)の属する事業年度の損金となります。従って、先の設例における役務提供(1年目)および役務提供(2年目)の株式報酬費用は、別表4で加算(留保)しておいて、譲渡制限解除日の属する役務提供(3年目)にそれを認容(別表4で減算)する申告調整が必要であると考えられます。なお、損金算入の対象となる金額は、特定譲渡制限付株式の交付と引き換えに役員から法人に払い込まれる報酬債権の額です。

先の設例の前提条件で、税務上は事前確定届出給与の要件を満たすものとした場合の申告調整例を以下に示します。

【報酬債権付与および株式発行時】

1. 会計処理

前払費用等 3,000 / 資本金等 3,000

2. 税務処理

報酬債権の現物出資を受け、株式を発行しますので、税務上も、資本金等の額の増加を認識することになると考えられます。法人税申告書別表5(1)の「資本金等の額の計算に関する明細書」の増加欄に増加額を記載すると考えられます。

【役務提供(1年目)】

1. 会計処理

株式報酬費用 1,000 / 前払費用等 1,000

2. 税務処理(申告調整方法)

事前確定届出給与の要件を満たす場合であっても、役務提供(1年目)の事業年度において損金算入はできないため、株式報酬費用1,000について加算・留保の調整が必要です。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書
区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益または当期欠損の額     配当  
その他  
加算 株式報酬費用加算 1,000 1,000    
減算          
別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
①-②+③
利益準備金        
  積立金        
株式報酬費用否認金    1,000 1,000

【役務提供(2年目)】

1. 会計処理

株式報酬費用 1,000 / 前払費用等 1,000

2. 税務処理(申告調整方法)

役務提供(2年目)の事業年度においても損金算入はできないため、株式報酬費用1,000について加算・留保の調整が必要です。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書
区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益または当期欠損の額     配当  
その他  
加算 株式報酬費用加算 1,000 1,000    
減算          

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
①-②+③
利益準備金        
  積立金        
株式報酬費用否認金 1,000   1,000 2,000

【役務提供(3年目)】

1. 会計処理

株式報酬費用 1,000 / 前払費用等 1,000

2. 税務処理(申告調整方法)

役務提供(3年目)に譲渡制限が解除されるため、別表4で加算(留保)した株式報酬費用否認金が全額認容されます。会計上損金経理した1,000と別表4の減算2,000の合計額3,000が損金算入されます。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書
区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益または当期欠損の額     配当  
その他  
加算          
減算 株式報酬費用認容 2,000 2,000    

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
区分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
①-②+③
利益準備金        
  積立金        
株式報酬費用否認金 2,000 2,000   0

なお、役務提供(1年目)および役務提供(2年目)に発生した株式報酬費用否認金は、税効果会計における将来減算一時差異の発生に当たり、役務提供(3年目)の株式報酬費用否認金の認容は、将来減算一時差異の解消に当たります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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