国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Developments

ITGがIFRS第9号の減損規定の適用上の論点を議論

2015.10.01
重要ポイント
ITGメンバーは、2015年9月の会議において数多くの適用上の論点を議論し、以下を含む多くの点で合意に至った。
  • 信用リスクが著しく増大しているかどうかの評価におけるプライシング及び顧客行動指標の使用の制限
  • 12カ月デフォルト確率が全期間デフォルト確率の合理的な近似値であるかどうかに関する定期的な再評価の必要性
  • リボルビング信用枠のエクスポージャーは契約上の限度額を上限とする

概要

2015年9月16日に金融商品の減損に関する移行リソース・グループ(以下、ITG)は第3回の会議を開き、IFRS第9号「金融商品」の新たな予想貸倒損失(ECL)に基づく減損規定の適用上の論点について議論した。1

国際会計基準審議会(IASB)は、新たな減損規定のうち、実務上ばらつきが生じる可能性のある規定に関する適用上の論点について議論する場を利害関係者に提供するためにITGを創設した。またITGは、IASBが各論点に対処するうえでどのようなアクションをとる必要があるかを判断する際の支援を提供するものでもある。ただし、ITGが自らガイダンスを公表することはない。

IASBは、ITG会議で議論された適用上の論点のサマリーを公表する予定である。本年最後の会議は2015年12月11日に開かれる見通しである。今のところ詳細は未定であるが、IASBは、必要に応じて2016年にもITG会議を招集する予定である。なお、IASBは関係者に対して、12月11日の会議で検討すべき論点について10月21日までに提出することを要請している。

1. 弊社刊行物 Applying IFRS - Impairment of financial instruments under IFRS 9IFRS Developments第105号「ITGがIFRS第9号の減損規定の適用上の論点を審議」IFRS Developments第100号「バーゼル委員会が、予想信用損失会計に関するガイダンスを提案」及びIFRS Developments第87号「IFRS第9号『金融商品』(予想信用損失)の公表」を参照されたい。

議論された適用上の論点

信用リスクの著しい増大

ITGは、信用リスクが著しく増大しているかどうかを企業はどのように判断すべきかに関し以下の2つの論点について議論した。

  • 1.(多くのリテール・ポートフォリオに一般的に見られるように)信用度に大きなばらつきがある顧客に同一のプライシング及び契約条件が適用される場合におけるリテール・ポートフォリオに係る信用リスクの著しい増大の識別方法
  • 2.当初認識以降の信用リスクの著しい増大の評価を行ううえでの信用リスクに関する顧客行動指標の使用可能性

ITGメンバーは、プライシングのみが信用リスクの著しい増大を評価するうえでの決定要因となることはないであろうという点に概ね同意した。2
仮に同じポートフォリオ内において、実行時に信用リスクが大きく異なる顧客が存在するとしたら、その事実を無視することはできない。ITGメンバーは、信用リスクが著しく増大しているかどうかを判定するための2つの考えられる方法を提案した。1つ目の方法は、共通の信用リスク特性を有するローンのグループごとにポートフォリオをセグメント化し、より緻密な細分化を図ることである。3 2つ目の方法は、集合的に評価される同一のポートフォリオに含まれるローンに関する、当初の信用度の違いを考慮できるようなより洗練された指標を構築するというものである。

ITGメンバーは、顧客行動指標のみで信用リスクの著しい増大を評価できるのは、顧客行動指標とデフォルト発生確率との間に相関関係が見られる場合だけであるということに概ね同意した。4 ITGメンバーは、顧客行動指標は、通常、過去に発生した事象に関するものであり(backward-looking)、企業は、集合的なアプローチなどを通じて将来予測的な(forward-looking)情報についても検討する必要があると指摘した。どのようなアプローチであれ、それは支払いが遅延する前にエクスポージャーを確実にステージ2に移すことのできるアプローチとすべきである。5 また多数のITGメンバーは、顧客行動情報は、企業自身の経験のみに依拠するのではなく、信用情報機関のデータなど、容易に入手できるその他の情報を活用すべきであると考えていた。

会議では、現金前払いのレベルや予想支払いパターンの変化(たとえば全額返済であったのが、それが全額返済でなくなるなど)、及び与信枠の予想以上の利用といった、IASBのスタッフ・ペーパーでは言及されなかった顧客行動指標についても提起された。これらの顧客行動は、個々に見れば信用リスクの著しい増大を判断するうえでの決定要因となることはないが、あわせて観察することにより、信用リスクの著しい増大の説得力のある指標となる可能性がある。企業は、これらの指標を組み合わせることで、ステージ1からステージ2への資産の移転をより適切に行うことができる可能性がある。

2. IFRS第9号5.5.4項
3. IFRS第9号B5.5.5項
4. IFRS第9号5.5.4項及び5.5.9項に基づく
5. IFRS第9号B5.5.2項

今後12カ月のデフォルト発生リスクの変化に基づく信用リスクの著しい増大の評価

企業は、金融商品の予想残存期間にわたるデフォルト発生リスクの変化に基づき信用リスクが著しく増大しているかどうかを評価しなければならない。6 ただし、IFRS第9号は、「・・・・今後12カ月のデフォルト発生リスクの変化は、全期間の評価が必要であることを状況が示している場合を除き、合理的な近似値となる」と述べている。7

また同基準書は、以下のような状況ではこうした便法の使用は適切とならないと述べている。8

  • 当該金融商品には、今後12カ月より先にしか多額の支払義務がない。
  • 関連性のあるマクロ経済要因又は他の信用関連の要因の変化が生じていて、それが今後12カ月における債務不履行発生のリスクに適切に反映されていない。
  • 信用に関連した要因の変動が、当該金融商品の信用リスクに影響を与える(又はより明確な影響がある)のは、12カ月よりも先の期間だけである。

この論点を提起した関係者は、12カ月のデフォルト確率(PD)が全期間PDの変化の近似値として使用できるような状況が継続しているかに関するレビューを毎年行う必要があるのかについて照会した。

ITGメンバーは、12カ月PDが全期間PDの合理的な近似値になるかどうかについて定期的に評価する方法が存在すべきことには合意したが、評価は常に定量的なものである必要はないということ以外に、評価手法に関する具体的な合意は行われなかった。

また、大半のITGメンバーは、12カ月PDは信用リスクの著しい増大の評価に用いることはできるが、全期間貸倒損失を測定する際の全期間PDの代用とするには適切ではないということに同意した。そのため、資産がステージ2又は3にある場合には、企業は全期間PDを計算する必要がある。

6. IFRS第9号B5.5.9項
7. IFRS第9号B5.5.13項
8. IFRS第9号B5.5.14項

リボルビング信用枠の予想貸倒損失の測定

ITGは、企業が以前から貸越枠、その他リボルビング信用枠を通じて契約で設定された限度額以上の借り入れを行うことを顧客に容認している場合、未使用の与信枠の将来の引出額についてどのように見積もるべきかについて議論した。

一部のITG参加者は、契約の合意内容に関係なく、最終的な経済的損失リスクを反映させるべきであると考えていた。しかし、基準上は、限度額を超える金額を含むことの根拠となるような規定は存在していないように思われる。

限度額が常に契約に明示される訳ではないと述べるITGメンバーもいた。こうした状況をどのように扱うべきかに向けた合意はなされなかったが、あるメンバーは、銀行がシステム又は貸出方針として限度額をどのように定めているのかを検討すべきではないかと提案した。ITGは、この論点をIASBが追加的に検討すべきものと位置づけた。

将来予測的な情報

ITGは、将来予測的な情報の使用について2つの問題点を検討した。

  • 1.将来予測的な情報はどのレベルで織り込むべきか。企業レベルか、あるいはポートフォリオ・レベルとすべきか 9
  • 2.「合理的かつ裏付可能な」将来予測的な情報とは何かについてどのように決定すべきか。10 また、重大ではあるが不確実な経済的帰結をもたらすショック事象をどのように取り扱うか

これに関してITGメンバーは、検討される情報がどの程度細分化されているかを踏まえ、重要かつ適切となるレベルで将来予測的な情報を評価すべきである点に同意した。すなわち企業は、損失をもたらす重要なドライバーを理解したうえで、必要なレベルで細分化すべきである。

2つ目の問題点について、ITGメンバーは、以下の両極端の間でバランスをとる必要があるという認識で概ね一致していたようである。

  • (a)関連する情報を不適切に除外する(これは、おそらく予想貸倒損失の認識を不当に回避又は遅らせる機会となる)
  • (b)ほとんど、あるいはまったく根拠のない思惑的な性質のものを含め、将来の可能性に関するすべての見解を検討する

なお、一部のITGメンバーは、予想損失の影響が信頼性をもって見積もることができないショック事象は稀であると考えていた。大半の事象は、その影響を見積もり、予想貸倒損失の測定に組み込むことが可能であると思われ、損失の影響を見積もることは可能ではないと結論付けられる場合でも、最低限、その結論及び事象については開示されるべきである。企業は誠実に最善の努力でもってショック事象に関連して生じる予想損失を設定すべきである。当初の段階では、これは当然概算値にならざるをえないが、少なくともその方向はリスクの動きと整合するものでなければならない。事象及びその帰結に関するより多くの情報が入手される時点でこうした見積りの測定精度を高めていく必要がある。

ショック事象による影響の算出する際には、長期的なマクロ経済予測にすでに織り込まれている一般的なショックや表面化していない事象をダブルカウントしないことが重要であるとの言及がなされた。ただし、大規模なショックについては、最終的には個別検討が要求される可能性がある。

ITGメンバーはまた、構築したアプローチはショック事象に一貫して適用しなければならず、個別に検討する必要の有無に関する結論にどのように至ったかを含め、すべての判断について文書化すべきという点で全体的に合意した。このプロセスを管理するためには良好なガバナンスと統制が要求される。

9. IFRS第9号B5.5.16項
10. IFRS第9号B5.5.49-54項

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)の最新動向

ITG会議でBCBSのオブザーバーは、BCBSの信用リスク及びIFRS第9号の適用に関するガイダンスの改訂についてアップデートを行い、BCBSのガイダンスは国際業務を展開している銀行にのみ適用されるものであり、今後もIFRS第9号で認められる一定の便法の使用を禁止することを確認した。

またBCBSのガイダンスには開示規定は含まれないことも確認した。BCBSは、開示に関する追加的なガイダンスを規制当局及び民間部門開示強化タスク・フォース(EDTF)に委ねることになる。これに関する草案は、近くバーゼル委員会に提示され、同委員会による検討及び承認を経ることになる。BCBSは、このガイダンスはUS GAAPやIFRSと矛盾させないことを目指しており、それを担保するために、公表前にFASBとIASBに「致命的欠陥(fatal flaw)」レビューのために最終草案を提出する予定である。信用リスク及びIFRS第9号の適用に関する最終的なBCBSガイダンスの公表は10月もしくは11月と見込まれている。


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