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情報センサー2015年4月号 FAAS

IFRS導入プロジェクトの進め方(2)

アカウンティングソリューション事業部
公認会計士 鈴木恵美
米国公認会計士 山内正美
鈴木恵美
日本のグローバル企業および外資系企業の監査経験を経て、財務会計アドバイザリーに従事。IFRS導入支援のほか、連結経営改革プロジェクト、US / J-SOX導入、決算早期化など、多数の案件に関与。

山内正美
IFRSを含む会計基準の変更、グループ財務報告体制の構築、決算プロセス改善、シェアード・サービス・センター導入、内部統制構築などのアドバイザリー業務に従事。国内外の事業会社での制度会計や管理会計などの業務、および監査業務を経て現職。

Ⅰ はじめに

前号で説明した通り、国際会計基準(IFRS)導入プロジェクトは通常幾つかのフェーズに分けて進めていきます。今号では、「フェーズ1~影響度調査」および「フェーズ2~導入計画の策定」を踏まえた「フェーズ3~対応策の検討と立案」を解説します。
「対応策の検討と立案」の主な活動に「会計方針の策定」および「開示の検討」があります(<図1>参照)。

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Ⅱ 会計方針の策定

会計方針の策定は、「検討」と「文書化」の二つに分けて考えられます。ここでは、それぞれで行う活動とともに、特に実施上のポイントと思われる項目について説明します。

1. 会計方針の検討

IFRSの会計方針の検討を行うために、まず、フェーズ2までに識別した個別課題について、対象となる取引の担当部署などを交えた実態調査や他社事例調査を行い、基礎情報を収集します。
また、会計方針を見直した場合、実際に会計処理が行えるよう対応策を検討します。そのため、対象となる取引が会計データとして記録されるまでの現行のプロセスや、使用されている情報の把握を行います。この際、プロセスやシステムの変更による対応策の選択肢を洗い出し、導入コストや数値の精度を比較分析して対応策決定の判断材料とします。例えば、手作業で対応する方法とシステム改修で対応する方法があり、それらを比較した場合、手作業の方が増分コストは低いけれども得られる数値の精度が低く時間も要するといったケースがあります。このようにメリットやデメリットを比較し、会社としてどちらを採用するかの判断を行っていきます。
このような課題の詳細調査によって得た基礎情報と対応策の検討の結果を踏まえ、会計方針をどう見直すかを決定します。重要な論点に関する検討の経緯と結論については、後日、社内や監査人を含めた社外への説明や会計方針のアップデートの際に有用なため、文書化しておきます。
会計方針の決定後は、各国のローカル会計基準とIFRSとの間の調整仕訳を作成し、調整仕訳一覧としてまとめておきます。この際、勘定科目の新設や変更が必要な項目も洗い出されるので、開示検討の結果と合わせて、勘定科目一覧や連結パッケージの見直しの基礎データとして整理しておくと有用です。

2. 会計方針の文書化

次に、会計方針の文書化を行い、グループの経理規程を作成します。経理規程に決められた様式はなく、各社の要件を満たす様式・内容で作成します。
作成を開始する前に、作成の工程および完成後の運用を考慮して、文書の整備方針を決めます(<表1>参照)。留意するポイントとして、経理規程はIFRS改訂(毎年)の都度更新を検討する必要があることを念頭に置き、更新作業が煩雑にならないように考えます。例えば、条文の引用箇所を詳しく示しておくことなどが挙げられます。

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経理規程は会社によってはボリュームが多く、数百ページに及ぶこともあります。記載のレベル感を均一にし、効率的に作業を進めるため、記載ルールを作成担当者に周知することが重要と考えられます。
また、海外子会社のために英語版をIFRS条文から引用して作成する場合、原文の修正を極力避けた方が英訳工数を削減できます。また、原文から修正した箇所をすぐに特定できるという点で、日本語版と英語版の同時作成が効率的であった事例もあります。
経理規程の作成方法は、一例としてIFRS条文や経理規程の一般的なひな型などをベースとし、グループの会計方針を加味して加工する方法があります。さらに、整備方針に基づき、該当する取引例や関連する勘定科目など、グループ固有の適用方針を加えて仕上げていきます。
作成過程の重要なポイントとして、ドラフトの段階で、海外を含む主要なグループ会社に対し、経理規程の記載は十分か、準拠不可能な規定が含まれていないかなどを確認することが挙げられます。経理規程のドラフト作成前に、重要なグループ会社にあらかじめ、IFRSとの基準差異に該当する項目の有無を確認しておくことも効率的なアプローチです。海外のグループ会社に該当項目がなければ、海外展開用の英語版経理規程に含めないということもできます。
また、作成はIFRSプロジェクトのメンバーを中心に行われると想定されますが、他部署が関連する項目については営業・総務・人事などと連携し、実態に合った内容となるよう実施します。

Ⅲ 開示の検討

1. IFRS開示の特徴

一般的に、IFRSを採用すると開示ボリュームが増えると言われますが、開示の検討はIFRS導入プロジェクトの中でも会計方針の策定と同じか、またはそれ以上の比重を占めると言っても過言ではありません。任意適用企業の中には、有価証券報告書の経理の状況が数十ページ増加したケースもあります。IFRSで新たに求められる開示も多く(<表2>参照)、注記用データ収集のための連結パッケージの見直しや、重要な会計方針や重要な会計上の判断、見積り及び仮定といった格段に増える説明的注記(定性情報)への対応のため、開示検討には十分な準備期間を設定します。

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2. IFRS財務諸表本体の表示の検討

IFRSには、表示の順序や勘定科目などについて詳細な定めがなく、会社独自の判断が求められます。また、IFRS財務諸表には、連結損益計算書の特別損益に相当する表示がない、経常利益という概念がないなど、日本基準と異なる部分も多いため、業績評価やIRへの影響も考慮に入れて検討を進めます。

3. IFRS注記の検討

(1)IFRS開示要件の検討

開示要件を分析し、開示作成のために新たに取得すべきデータと取得方法について検討します。親会社で対応できるものもあれば、グループ会社から収集するデータもあります。また、対象会社が広範な場合もあれば、ごく少数に限られる場合もあり、前者については連結パッケージで収集し、後者については個別に入手するなど、対応策を検討します。

(2)スケルトン財務諸表の作成

開示内容を具体化・可視化するため、IFRS財務諸表の骨組みとなるスケルトン財務諸表を作成します。開示の検討が進むに従い、スケルトン財務諸表に会社独自の情報を追加し、外部公表するIFRS財務諸表のベースとします。スケルトン財務諸表の作成は、他社事例の収集や開示の選択肢についての検討など、多くの時間を要しますので、作成の目的や必要性を十分に検討した上で、どのタイミングで、どのように作成するか決定します。IFRS導入の社内意思決定から適用目標年度までの日程がタイトなケースでは、スケルトン財務諸表を作成せずに連結パッケージの要件定義を行った事例もあります。また、連結パッケージ要件定義のベースとするため、まずは定量情報について作成し、定性情報は後から作成するなど、作成スケジュールを工夫した事例もあります。スケルトン財務諸表の作成手順としては、任意適用企業の有価証券報告書や海外の同業他社のアニュアルレポートなどを基に、会社独自の情報を追加していく方法が一般的です。

(3)連結パッケージの改修

IFRS用の連結パッケージの整備方針に従い、連結パッケージの要件定義を行います。連結パッケージの整備方法として、日本基準の連結パッケージにIFRS要件を追加するケースや、IFRS用に連結パッケージをゼロから作成するケースなどがあります。また、四半期用の連結パッケージも整備する必要がありますが、通常は年度用の連結パッケージの一部が四半期用の連結パッケージとなるため、最初に年度用の連結パッケージを整備し、四半期で収集するパッケージフォームを特定することで、四半期用の連結パッケージを作成するアプローチが多く採られます。当該整備方針についても「フェーズ2 ~導入計画の策定」で検討しておくことが推奨されます。また、IFRS調整仕訳などを踏まえ、IFRS勘定科目についても合わせて検討します。連結パッケージの要件定義を行ったら、通常はシステムチーム(社内のシステム部門や外部のベンダーなど)に引き継ぎます。タイミングについてはシステムチームと事前に協議し、連結システム改修に要する期間などを勘案し、プロジェクト全体計画に反映しておきます。

(4)グループ会社への展開

連結パッケージは、IFRS財務諸表の作成スケジュールに従い、グループ会社に展開します。各社がタイムリーに報告データを作成するため、移行日より前に整備するのが理想的です。移行日に間に合わない場合は、連結パッケージ案を作成した段階で各社に展開するなどの工夫をします。例えば、連結パッケージの要件定義を行った段階で、スケルトン財務諸表を更新して作成したIFRS財務諸表案や連結パッケージ案をグループ会社説明会などを通じて、グループ会社に周知する方法などが考えられます。

Ⅳ おわりに

前号に引き続き、IFRS導入プロジェクトの進め方の概略を解説しました。IFRS導入は、数年に及ぶ長期プロジェクトとなり、関係者も多数となるため、綿密なスケジュール策定とプロジェクトマネジメントが重要です。また、プロジェクト対応から通常の決算体制での運用に定着化するところまで見据えて、IFRS人材育成のための効果的な研修を実施しながら、対応を行う必要があります。


情報センサー 2015年4月号